ハウスメーカーの元営業マンとして、20年近く注文住宅づくりに関わってきた者の実感として、
安全な家と言われてまずイメージできるのは、地震に強い家であろうと思います。
1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災、2016年の熊本地震と、
マグニチュード7~9クラスの大きな地震がこの20年近くの間に立て続けに起こり、
被害の大きさがTVで何度となく伝えられているのを見ると、
しっかりした家を建てたいという気持ちになるのは良くわかります。
また、地震だけではなく、毎年のようにやってくる大型台風にも警戒をしなければなりません。
強風で屋根や壁が飛ばされたり、土砂崩れで建物ごと流されてしまったり、
川が氾濫して家が浸水・水没する恐れがあるからです。
こういった天災はいつどこにやってくるのかが全くわからないだけに、
私たちはただ備えることしかできません。
住む人にやさしい安全な家づくりをするためには、まずは天災に強い家にする必要があるのです。
それでは、注文住宅の主な工法を抑えたうえで、耐震化に対するアプローチの違いを見てみましょう。
木造軸組み工法(在来工法)
木造軸組工法は、日本の木造住宅において主流の工法です。
阪神・淡路大震災で壊れた木造住宅のほとんどは昭和56年(1981年)に制定された
新しい耐震基準が満たされていない古い住宅でした。
新しい耐震基準は、それまで想定していた震度を5から6に引き上げ、
なおかつ建物が壊れにくく、中にいる人が守られるような基準になっています。
しかし、木造軸組み工法だけでは、耐震基準を満たすことはできないので、
主に以下のような方法で耐震性能を上げるための補強をします。
木造住宅にかかる力を支えているのは柱だけではありません。
強風や地震の横揺れなど、横からかかる力を支えるのが耐力壁(筋交い)です。
この壁を東西南北にバランスよく配置することが木造住宅の強度を増すポイントです。
耐力壁は筋交いを入れて作られる場合と、構造用合板で作られる場合があります。
耐力壁は横方向にかかる力には強いのですが、
地震の縦揺れなどの縦方向にかかる力には比較的弱いという欠点があります。
その欠点を補うのが、柱の接合部分に取り付ける耐震金物です。
阪神・淡路大震災などでも地震の縦揺れで柱と梁が外れてしまったり、
柱が抜けてしまったために家が崩れたりした例は、数多くありました。
耐震金物にはいくつかの種類があり、
一例としては柱が土台から抜けないように繋ぐホールダウン金物、
筋交いを補強する筋交いプレートなどがあります。
最近の屋根はスレート材、ガルバリウム鋼板などの薄くて軽量な屋根材が主流で、
これが建物の耐震化にも大きく貢献しています。
たとえば、粘土瓦を屋根に載せた場合、
1坪あたり165~170kg程度の重さがかかるところを、
ガルバリウム鋼板に変えるだけで約10分の1の重さになるというデータもあります。
もしも、屋根に純日本風の瓦を使いたい場合は、瓦の重量に対する構造の強化はもちろん、
地震の際に瓦が落下しにくくなる対策も必要です。
2×4(ツーバイフォー)工法
この住宅は在来工法と同じく木造ですが、
北米で主流の2×4(ツーバイフォー)という工法を使っており、
構造用合板による優れた耐震性が特徴です。
2×4工法で作られた住宅は、壁、床、屋根が一体となっているモノコック構造のため、
地震の揺れを上下前後左右の6面体の建物で受け止め、力を分散します。
力が1か所に集中しないぶん、倒壊にも強いのです。
鉄筋コンクリート造(RC造)
コンクリートの芯に鉄筋を使った鉄筋コンクリートで建てられる工法です。
強さとしなやかさの両方の特徴を併せ持っているのが建物の特徴で、
コンクリートは火災の燃焼を抑え、鉄筋の錆を防止するのにも役立っています。
コンクリートを使っているために建物に重量があり、
地震があった際の揺れはやや大きくなりますが、
平均的な耐震性能は在来工法よりも高くなっています。
プレハブ工法(軽量鉄骨造)
住宅を建てるのに必要な部材をあらかじめ工場で製作しておき、
現場に運んで組み立てる工法をプレハブ工法といいます。
耐震化については、筋交いの構造をもとに
振動エネルギーを熱エネルギーに変換した後に吸収してしまう制振構造システムや、
建物と基礎の間にオイルダンパーを設置して振動が使わるのを抑制するなど、
さまざまな技術が開発されています。
重量鉄骨造
鉄骨の柱や梁をボルトなどで
強固に接合した重量鉄骨ラーメン構造を使った工法で、
ビルの建築などでも使われます。
重量鉄骨造は柱や梁に頑丈で耐久性に優れた金属を使っていることもあり、
もともと地震に強い構造になっています。
地震大国である日本で住宅を建てる以上、建物の耐震化は、
いくら費用を掛けても掛け過ぎることはないと思えるぐらい重要な対策です。
同じ工法でもハウスメーカーによって耐震化のための技術は違いますから、
こういった技術をもとに施工会社を選ぶのも良いでしょう。
ただ、在来工法でも耐震金具との組み合わせで
新しい耐震基準以上の強度を持った家を作ることも可能です。
どの工法にしろ、いつやってくるかわからない天災だからこそ、
あらかじめ十分な対策を練っておく必要があるのです。