注文住宅はハウスメーカーごとに得意とする工法や
提供する価格帯などに違いがあります。
1000万円以下で建てられることをウリにした注文住宅などは、
その最たるものでしょう。
価格、工法にさまざまな選択肢があるのは、
お客様によって注文住宅に対して抱いている価値観がそれぞれ違うからです。
高級志向、低価格指向、ライフスタイル重視、環境重視など、
お客様の数だけ要望にはバリエーションがあります。
しかし、私がこれまでいろいろなお客様とお話をしてきて共通しているなと感じたのは、
ご自分が建てる注文住宅で「快適に暮らしたい」と思っている点です。
厳密に言うと快適の定義もまたお客様によって異なるのですが、
いずれにしてもリラックスできないような家をわざわざ建てたいと思う方はいらっしゃいません。
では、快適な家を建てるにはどうすれば良いのかと言うと、
まずは部屋単位で快適さを追求していくことです。
ここでは住宅の主要な部屋について、快適につくるための考え方をご紹介します。
各部屋を快適な空間にするための間取りアイディア
注文住宅を作るなら、どんな間取り設計がベストなのか、悩まれる方が多いものです。
各部屋を快適につくるための考え方を紹介します。
いくつかのアイディアの中から、間取り設計のヒントを探してみてください。
リビングダイニング
家族が集まるリビングダイニングは、
食事や接客ができる場所として機能面を重視するか、
家族がリラックスできる空間として精神的な面を重視するかによって、
間取りやデザインが変わります。
最近は核家族化がすっかり当たり前になり、
また日々の生活でさまざまなストレスにさらされることが多いためか、
リビングダイニングには精神的な面を重視される方が多くなっています。
とはいえ、普段から来客が多いご家庭なら、
リラックスできる空間としてだけではなく、
良いソファー、家具、オーディオ機器などを置いて、機能面も重視されたほうが良いでしょう。
リビングダイニングは食事をする場所であることも考えると、
間取りは最低でも10帖程度あると快適に使用できますが、
家族やよく来客される人数を考えてから決めることをおすすめします。
和室
洋室中心の間取りになりがちな注文住宅でも、和室がひと部屋あるだけで、
不思議と落ち着く空間が出来上がるものです。
和室はお客様の年齢を問わずに人気のある部屋で、
「狭小住宅だけど小さくても和室が欲しい」という方も多くいらっしゃいます。
椅子とテーブルを基準にした視線の高い洋室、
畳と低い机を基準にした視線の低い和室。
異なる高さの視線と雰囲気を持った和洋の部屋を作っておくと、
同じ家でも生活にメリハリができます。
注文住宅に和室を作る場合は最低でも6帖以上、
家具を置くなら8帖は確保しましょう。
畳の周りに余裕がある場合は、
板張りのスペースも作っておくとより一層趣のある部屋に仕上がります。
以前、私がハウスメーカーの営業マンだった頃に担当したお客様に
「モダンな和室を作って欲しい」という方がいらっしゃいました。
ひとくちにモダンといっても、言葉の解釈の仕方によってデザインは変わります。
このお客様の場合は、和室とリビングを繋げたうえで、和室に70cmほどの段差を設けました。
この段差がちょうど椅子の代わりになり、ここでお茶を飲みながらくつろげるようになっています。
また、和室の上部にはモダン化の一環として勾配天井のついた吹き抜けを作りました。
通常、和室は座って過ごすのが基本ですから、高い天井には違和感があるかもしれません。
しかし、この部屋は床を70cm上げていたこともあってか、
むしろ開放感のある素敵な部屋になったと思っています。
実際、この和室はお客様からも好評でした。
モダンを表現するひとつの方法は、伝統との融合だと思います。
こういったアレンジができるのも注文住宅の魅力のひとつです。
寝室
寝室は浴室に次いでリラックスできる場所です。
1日の疲れを癒し、明日の英気を養う大事な部屋ですから、
良い寝室になるかどうかは、静かに安心して眠れる環境をいかに作れるかにかかってきます。
それを踏まえて考えていただきたいのが、
寝室にベッドを置く場合、部屋にはどのぐらいの広さがあると快適かという点です。
もしシングルベッドを2つ並べるのなら、部屋は最低でも4.5帖は必要です。
しかし、4.5帖はベッドを並べるだけで手いっぱいの広さで、
家具を置く場所はほとんどありません。
さらに、ベッドと壁の間に余裕がなく、部屋の中を移動する際も窮屈に感じます。
では、シングルではなくダブルベッドを置く場合はどうでしょうか?
ダブルベッドなら部屋の広さは最低でも6帖は必要です。
さらに、ダブルベッドの周りにドレッサーやTVラックまで置くのなら、8帖は必要になります。
寝室はリラックスできる空間でないと快適な眠りにはつけません。
快眠のために部屋の壁紙の色、照明の明るさ、
断熱性の高さなどに注意するのは当然として、
「部屋の広さもリラックスできる条件のひとつ」になりますので、
寝室は空間に余裕のある間取りにしておきましょう。
これも私がハウスメーカーの営業マンだった時代のエピソードになりますが、
寝室に関係するものなのでご紹介します。
私が担当したそのお客様は先祖代々の地主の方で、
当時60歳の旦那様と30歳の奥様のご夫婦でした。
お客様からいただいた間取りについてのご注文には、
特に変わったことはなかったのですが、
寝室についてひとつだけご指示をいただいたのを覚えています。
それは旦那様の奥様に対する愛情の表れなのか、
あるいは奥様のセンスなのかはわかりませんが
「寝室は赤を多用したビビッドな配色にしてほしい」
というご要望をいただいたのです。
寝室は気持ちをクールダウンさせるために、
ほとんどの場合は落ち着いた配色にします。
しかし、このお客様の寝室は、目の覚めるような強い配色の壁になったため、
とても印象に残っているのです。
どういう配色が良いのかは、
あくまでもお客様の好みですから良い悪いということではありません。
ただ、特に強いこだわりがないようでしたら、
落ち着いた配色にしておくことをおすすめします。
子供部屋
子供部屋は現在お子さんが何人いらっしゃるのか、
または今後増える予定があるのか、
さらにお子さんの年齢によっても間取りに対する考え方は変わります。
たとえば、小学校低学年のご兄妹がいる場合、
最初はお二人で1つの部屋を共有してもかまわないと思います。
ただし、思春期が訪れるあたりになったら、部屋を分けてあげたほうが良いわけです。
また、住宅を建てる時点でご兄妹がいるご家庭なら、
将来的に部屋を分けることを見越して部屋の中央に間仕切り用の引き戸をつけておく、
または後から壁を足せるような構造にするといった準備をしておくとよいでしょう。
もちろん、住宅の広さに余裕がある場合は、
最初から個別に子供部屋を作っておけばよいのです。
お子さんが部屋で本格的に勉強をするようになったときのことを考えると、
部屋の壁紙は明るい配色のほうが良いでしょう。
といっても黄色や青などの原色よりは、
勉強や読書のときにも落ち着ける白を基調とした配色のほうをおすすめします。
キッチン
キッチンの設計は、普段からよく利用される奥様のご意見をヒアリングして
要望を反映させたほうが失敗は少なくなります。
重視するポイントは、使いやすいシンクの高さの見極め、
調理時の動線の確認、食料品の保管方法です。
これらはキッチンを最も良く使う人に合わせておきましょう。
キッチンの間取りは見た目に凝るのも良いのですが、
まずは機能性の確保を優先することをおすすめします。
キッチンは毎日使う場所なので、動線に無駄がある、
調理スペースが狭いなど、機能面に問題があると、
たとえ小さなものでも使い続けるうちにストレスがたまってしまうのです。
キッチンの形態によっても使い勝手や機能性が変わりますし、
まずはどの形態が良いのかを考えましょう。
それでは主なキッチンの形態と、それに対する注意点をご紹介します。
クローズド(独立)キッチンタイプ
クローズドキッチンは、
キッチンを他の部屋から完全に独立させてあるタイプです。
キッチンの中にこもれるので調理に集中できる、
焼き物の臭いを部屋の中に封じ込めやすい、
食器を洗う音や調理の音が他の部屋に漏れにくいなどのメリットがあります。
その一方で、隣にダイニングがあっても人の気配を感じにくくなる、
配膳の動線が長くなる(手間がかかる)というデメリットもあります。
オープンキッチンタイプ
キッチンとダイニングの間の壁を無くし、
2つをつなげて一体化したタイプです。
キッチンのなかから、ダイニングや(間取りによっては)リビングも見えますので、
料理をしながらお子様の様子を見られるので安心です。
壁がないぶん配膳をしやすいというメリットがあると同時に、
肉や魚などを焼いたときの臭いが
リビングやダイニングまで流れていきやすいというデメリットもあります。
セミクローズド(半独立)キッチンタイプ
ダイニングとキッチンに空間的なつながりを持たせながら、
部分的に壁を使って半個室のように独立させたタイプです。
壁でしっかりと仕切らないまでも、キッチンに扉を付ければ、
開けたときにはダイニングとの一体感、閉じたときには独立感を出すとこともできます。
このタイプは、キッチンにいながら
ダイニングにいる人の気配を感じられるオープンタイプ、
料理の臭いが広がりにくいクローズドタイプの良いところを
両方取り入れているのが特徴です。
センターキッチン
センターキッチンは、システムキッチンの周りに壁がなく、
シンクが海に浮かぶ島を思わせるアイランド型のことを言います。
このタイプはシステムキッチンの周囲の壁に加えて、
シンクの上に吊戸棚もないので、
視界が広く隣のダイニング全体も見渡せます。
その一方で換気をしっかり考えないと、
オープンタイプよりも調理の臭いが部屋に広がりやすい点はデメリットでしょう。
玄関
玄関はお客様をお迎えする家の顔でもあるだけに、
できるなら南向きの明るい場所に作りたいものです。
しかし、道路に接している敷地の方角や動線の関係などから、
必ずしも南に玄関が確保できないケースも数多くあります。
そのため、広い敷地が確保しにくい都市部では、
南側の玄関にこだわる必要性も弱くなっているように思います。
ただ、南向きに玄関を確保できない場合でも、
玄関の機能性さえ高ければ使用上の大きな問題はありません。
では、玄関に求められる機能性は何かと言うと、高い収納力です。
家族全員の履物は晴天・雨天の両方をそろえる必要があるうえ、
傘、レインコートなども用意しなければならず、
どんな住宅でも玄関の収納力の田高さは標準で求められる機能なのです。
玄関の機能性をさらに高めるなら、
クローゼットを設けてコートやマフラー・帽子などを収納しておくと、
外出の準備や帰宅のかたづけもスムーズに行えます。
廊下・階段
部屋どうしを繋ぐ廊下や階段は、主に安全面に配慮することが大事です。
廊下・階段のプランを考える際に
最初に心がけていただきたいのがバリアフリー化でしょう。
体力があり、体の動作に何の問題もない若い頃にはなかなかわかりづらいですが、
人間は年齢を重ねるごとに身体がうまく動かなくなってきます。
若い頃には特に意識することもなく越えられていた小さな段差でも、
歳を取るとつま先が引っかかるようになり、
場合によってはそのまま前に倒れてしまうこともあります。
これは怪我の原因になるだけではなく、
倒れた際の打ちどころによっては命にも関わりますから、軽視できない問題です。
住宅のバリアフリー化は、
体力が衰えるであろう20年後、30年後のご自分の姿を考えて、
前もって対策をしておくことをおすすめします。
さらに、階段は転落事故対策として手すりの設置と滑り止め用のテープを貼ることを基本に、
あらかじめ下まで転落しにくい構造を選んでおくのも良いでしょう。
階段は上下階が一直線につながった「直階段」よりも、
中ほどの高さで180度折り返す「折り返し階段」や
向きを90度変える「かね折れ階段」のほうが、
転落時に一気に下まで落ちないぶん、危険性が弱められます。