注文住宅を建てる場合、
ハウスメーカー、工務店、設計事務所の
どこに設計を依頼するかによって、作業や契約の流れが変わります。
たとえば、私が以前営業マンをしていたハウスメーカーや工務店の場合は、
基本的に1社で設計と施工の両方を行います(設計施工)。
しかし、設計事務所に頼んだ場合は、住宅の設計は設計事務所、
施工は別の工務店と作業が分かれているために、
依頼する相手が2社に分かれます(設計施工分離方式)。
とはいえ、どこの会社に設計を依頼するにしても、
打ち合わせを重ねて理想の間取りが固まったら、
注文住宅の制作工程はひとつの節目を迎えたと考えて良いでしょう。
住宅を建てる計画、すなわち建築計画には主に4つのステップがあり、
間取りを決めることは、そのステップの1つ「基本設計」になります。
「設計」と言うと家の図面・設計図を書くことだけのようにも思われがちですが、
それは実際のところ計画のほんの一部にすぎません。
ここでは設計事務所に設計を依頼した場合を例に、
建築計画の4つのステップについて違いを見てみましょう。
設計を行う前に、敷地の広さや立地条件、上下水道、ガス、電力の供給状況などについて
現地で細かく調査をします。
施主から建てたい住宅の間取りや部屋の広さ、設備などを良く聞き取って、
プランニングを進めていく段階です。都市計画法や建築基準法など、建築に関係する法令に照らし合わせながら、
平面と立体の基本設計図を作成します。
具体的な間取りがこの段階で固まるのにともない、
工事費の概算もわかるようになりますから、
建築費用の支払計画が立てられます。
基本設計の段階で出来上がる図面は比較的シンプルな内容なので、
施主にもわかりやすい内容です。
基本設計図書(図面、仕様書、構造計算書)で固まった内容をもとに、
工事の請負業者が実際に工事できたり、
工費の具体的な内訳明細が作れるまで情報を盛り込んだりして、
設計図書を作成する段階のことをいいます。電気や給排水の場所なども書き込まれ、
かなり詳細で専門的な内容の図面となるため、
施主だけでは内容が把握しにくいはずです。
この段階で作成した設計図の一部をもとに、
建築確認申請手続きを行います。
これで建築確認通知書を受理しないと、着工することができません。
実施設計が終わった時点で大規模な変更を加えることは、
ここまでの計画を無駄にすることになりますし、
余計な費用を使うことにもなってしまいます。
実施設計図に基づき、工事が請負契約書などに示された条件に従って
適切に施工されているかを管理します。以上の4つのステップのうち、1)と2)が「基本設計」と呼ばれる段階にあたり、
基本設計で注文住宅のおおまかな内容・方向性が決まります。
たとえば建物が平屋なのか2階建てなのか、どういう間取りなのか、
各部屋の大きさはどのぐらいなのか、ドアの場所はどこかなど、
基本的な設計がこの段階で決まってしまうわけです。
基本設計は施主の要望をどう間取りに落とし込むか、
または落とし込めるかを検証しつつ図面に示した段階です。
さらに具体的に図面を作るのは、その次の実施設計(詳細設計)になります。
実施設計を無駄にしないために基本設計でシミュレーションをする

施主から間取りに対して十分に要望を伝え、基本設計である程度形が見えたら、
一端立ち止まって完成予定の家に対する
生活シミュレーションをしてみることをおすすめします。
生活シミュレーションというのは、
その家で朝起きてから夜寝るまでの1日の生活を想像してみるということです。
たとえば、朝起きたときに自分はどの部屋で寝ているのか、
そのときに朝日はどちらから差し込んでくるか、
また着替えはどの部屋で行うのか、
ダイニングのどのあたりに座って食事をするのかなど、
生活の時間に沿って、家の中での行動を具体的にイメージしてみましょう。
計画した間取りをもとにイメージを膨らませると、
動線にムダが多いことがわかったり、
扉や窓の位置を不便に感じたりすることがあるかもしれません。
また、シミュレーションをするときは、規則正しい生活だけではなく、
時間帯のずれた生活やアクシデントも想定しておきましょう。たとえば、
深夜に帰宅したときに家族を起さずに部屋まで行けるかどうかや、
停電をしたときにブレーカーがすぐ見つけられるかどうかなど、
特定のシチュエーションも想定してみると、
図面に潜む問題点がより見えやすくなります。
これは屋内の間取りだけではなく、
外構やガレージなどにも有効な方法なのでぜひ試してみてください。
実施設計が完了したら相見積もりを取りましょう

基本設計の内容に問題がなく、実施設計が終わったら見積もりを取ります。
よほどの理由がない限り、見積もりを取る会社は1社に絞り込まず、
最低でも3社は選びましょう。
この際、ハウスメーカーにも合い見積もりを取りたい場合は、
設計の段階から依頼してください。
なぜなら、実施設計で上がった図面をハウスメーカーに渡しても、
工法などの違いから対応できないからです。
したがって、各企業における設計と施工の分担は以下のようになります。
依頼内容 | 担当する施工会社 |
---|---|
設計のみ依頼 | 設計事務所 |
設計から施工まで依頼 | ハウスメーカー、工務店 |
施工のみ依頼 | 工務店 |
設計事務所に設計を依頼した場合は、
施工する工務店を探してそちらの見積もりも取ることになります。
設計を工務店にお願いした場合やハウスメーカーを選んだ場合は、
設計と施工が一緒に行われる場合がほとんどなので、
施工会社を探す必要はありません。
見積もりを依頼する設計・施工会社の探し方は?
注文住宅の設計・施工の見積もりを取るといっても、
どこの会社に依頼すればいいのでしょうか?
これが絶対に正しい、という選び方はありませんが、
費用やトラブルの面で発生しがちなトラブルをなるべく減らすには、
以下の方法を試されると良いでしょう。
1)依頼する会社の規模を変えて合い見積もりを取る
ハウスメーカー、工務店、設計事務所+工務店という具合に、
依頼する会社の規模を変えてそれぞれから見積もりを取ると、
費用はもちろん、工法や間取りに対するそれぞれの考え方の違いを比較できます。
この比較が非常に良い検討材料になるのです。
この際、それぞれの会社には同じ間取りを伝えて(同じ条件で)
設計をしてもらわないと比較にならないので注意しましょう。
私はハウスメーカーの元営業マンでしたから、
ハウスメーカーの注文住宅を推したい気持ちはありますが、
あえて合い見積もり、一括見積もりを取ることをおすすめします。
これによってそれぞれの会社の良し悪しが見えてくるはずなので、
ぜひ比較検討してみてください。
2)設計事務所の横のつながりを利用する
設計事務所に設計を依頼した場合、
工務店探しはその事務所と取引のある会社から何社か紹介してもらうのも良いでしょう。
お互いに普段からいっしょに仕事をしている関係なので、
よほどひどい会社は紹介されません。
裏を返せば、紹介された工務店は設計事務所の太鼓判を押されているわけです。
これなら安心感があるでしょう。
また、ご自分で会社を探す場合、
もしも家の近くに2~3代続いている家族経営的な工務店があるなら、
そこに依頼してみるのも手です。
そういった地元密着型の会社は、
確かな腕と評判がなければ長く営業は続いていません。
会社が2~3代も続いているのであれば、
それだけ確かな実績があるということです。
3)親戚や上司の知人などが経営する会社はなるべく避ける
工務店や設計事務所探しの方法として、親戚や友人を頼るのも1つの手です。
しかし、合い見積もりを取って断った場合、
紹介相手の心象を悪くする可能性のある場合は避けておいたほうが無難です。
たとえばあなたがサラリーマンの場合、
会社の上司の知り合いに工務店を経営されている方がいるとします。
上司からその方を紹介され、図面を見せてもらったり合い見積もりを取ったりした結果、
お断りすることになったとしましょう。
その後、その上司がメンツを気にされない方なら構いませんが、
そういうつてで紹介されたあなたは、断りづらいのではないでしょうか?
直接の利害関係はないとはいえ、
その後上司と仕事をするうえで小さな禍根が残らないとも言えません。
そんな心配を抱えるぐらいなら、最初から依頼しないほうが気は楽でしょう。
建築中も上司の知り合いということで余計な気を使ってしまうかもしれません。
また、親しい親戚や兄弟が工務店や設計事務所をやっていた場合も、
いざ断るとなったら断りにくいのではないでしょうか。
間柄が親しいほど、
提示された見積額になかなか「No」とは言いにくいものです。
こう書くとお付き合いを無視した冷たい判断のようにも思えるかもしれません。
しかし、大きな金額が絡む一生に一度の買い物だからこそ、
人間関係も含めて会社の選択は慎重を期すことをおすすめします。
4)家から近い場所にある会社を選ぶ
その会社ならではのデザインができる設計事務所など、
「あの会社以外は考えられない」という特別な思い入れがない限りは、
設計・施工会社は家から近いほうが何かと便利です。
家から近ければ打ち合わせ回数が多くなってもすぐに行けますし、
注文住宅を建てたあとに何かあった場合でも、すぐに来てもらえます。
といっても、家から会社までの距離に、選ぶための目安があるわけではありません。
交通機関を使って移動する時間を考えると、遠くてもせいぜい15km圏内でしょう。
ただ、地方であればこの限りではなく、また設計・施工会社の多い都内なら、
範囲をもっと狭めても良いと思います。
注文住宅にかかる費用・予算の内容を把握する
注文住宅を建てるときに、必要な費用・予算を把握することは非常に大事です。
住宅はさまざまな材料、部品が何千・何万個と集まって1つの家を形作っているので、
部品1つの小さな金額の違いも、数が増えると大きな差額となって予算に表れます。
このときに役立つのが見積もり書の比較です。
そもそも、提示された見積もり書が、必ずしも完璧な内容ではない場合がありますから、
じっくりと中身を見て、抜けている要素がないかを確認しましょう。
とはいっても、専門的な部品や部材になると、
それがどういう役割でどんなグレードの商品なのかは、
一般の方にはなかなかわからないと思います。
さらに、すべての部品に対して1つずつ機能や価格を調べて比較検討するというのも、
その手間と時間を考えると現実的ではないでしょう。
しかし、やはり比較の目安がなければ判断の拠り所を失ってしまいます。
そこでおすすめしたいのが、
かかる費用を家の間取り単位で比較することです。
注文住宅を間取り単位に分けて予算を検討する

各施工会社に提出してもらった合い見積もりは、
同じ条件の間取りにすることを前提にしているはずですから、
部屋単位で費用の比較ができます。
この比較方法で各部屋の見積もりを見ていくと、
各社が算出した金額の差がわかると同時に、
その会社がどこにお金をかけようとしているのかがわかります。
たとえば、A社はキッチンの施工費用に200万円、
B社は250万円の金額を提示してきたとしましょう。
この場合キッチンの広さは同じと考えます。
このうち、見積もりの50万円の差が設備のグレードアップなどに使われていた場合は、
そう悪くない提案かもしれません。
たとえば、キッチンの間取りにパントリーの設置を希望されていたとして、
値段は高いもののB社が選んだ商品の使い勝手がよさそうなら、
50万円高い見積もりでも十分な検討材料になるでしょう。
反対に50万円の半分ぐらいが人件費に使われているとか、
同じ商品の割引率が単にA社よりも悪く、そのぶん高くなっている場合は、
見積額の差から納得感は得られないかもしれません。
このように、屋根や外構なども含め、
家の場所・間取り単位で見積もり金額を比較していけば、
問題点がよりわかりやすくなります。
全部の部屋を比較し終わったあとには、
どこに費用をかければいいかが、よりはっきりとわかってくるでしょう。