日本は春夏秋冬で気温や湿度が大きく変化します。
この厳しい自然環境のなか、家で快適に過ごすためには、
>間取りに気を使うだけでは不十分です。
季節が変わると人は衣替えをするように、
家のなかも柔軟に室温を管理できることがポイントになります。
自然の風や光を上手に利用しつつ、冷暖房器具を適切に使いながら、
室内を快適な温度・湿度に保つことが快適な生活をおくるうえで重要なのです。
ここでは、注文住宅で快適に暮らすための温度管理をはじめ、
光や風の採り込み方などをご紹介しましょう。
室温の調整に必要なのは高い断熱性
たとえば、小さな穴が開いたビニール袋に水を入れても、その穴から水が漏れてしまうように、
断熱性の低い家でいくら空気を温めたり冷やしたりしても、
暖気や冷気は穴を通る水のように屋外へ逃げてしまいます。
断熱性の高い住宅を作る基本は、なんといっても壁や天井などに入れる断熱材です。
そもそも断熱というのは、その文字からもわかるように、
熱の伝導を途中で遮ることを意味します。
金属のフライパンに樹脂製の取っ手がついているのは、金属から伝わる熱を樹脂で遮り、
手に熱を伝えないようにするためですが、断熱材もこれと同じような役割を果たすわけです。
窓から出入りする熱の量を複層ガラスで抑える

住宅の断熱性を高めるには、断熱材を使うだけでは不十分です。
外から熱が入りやすく室内から熱が逃げやすい窓にも、
高い断熱性や遮熱性が求められます。
窓の数や大きさ、住宅の広さや向きなどにもよりますが、
夏場に窓を通して外から入り込んでくる熱は全体の約70%、
反対に冬場に窓から室外に逃げていく室内の熱は約50%といわれています。
このデータをもとに考えると、
夏・冬ともに室内の温度は窓を通して大きく変化していることがわかります。
まさに窓が熱の出入り口で、冒頭のたとえで言うと、窓こそが袋に空いた穴なのです。
かといって窓を無くすことはできませんし、しっかりと閉めていても熱が出入りします。
そこで重要になるのが、断熱・断熱性能に優れた窓を使うことです。
断熱性・遮熱性に優れた窓は、一般的な平板の一枚ガラスを使った窓ではなく、
Low-Eと呼ばれる性能を持った複層ガラスを使っています。
Low-EのLowは英語で低いという意味ですが、EはEmissivity(放射)を表します。
Low-Eガラスは板ガラスの表面に銀や酸化したスズなどの特殊な金属膜をコーティングしたもので、
この膜が遠赤外線の反射率を高めているのです。
しかも、複数枚のガラスの間を密封した複層ガラスによって、熱の伝導率も低減してあります。
つまり、Low-Eガラスは遠赤外線に対して低放射のガラスを使った断熱性の高い窓というわけです。
このLow-Eガラスを使った窓は、夏は外部からの熱の侵入を抑え、
冬は室内の熱が逃げるのを抑えます。
省エネルギー住宅は客観的な判断で評価される
断熱材やLow-Eガラスを使った住宅は熱を無駄にしない住宅です。
こういった高気密・高断熱の住宅で、
なおかつ家庭内で消費されるエネルギーが少なくて済む住宅は「省エネ住宅」と呼ばれます。
省エネ住宅はエネルギーの消費が少ないぶん二酸化炭素の排出量も抑えられ、
環境に優しい住宅ともいわれています。
その住宅がどの程度の省エネ住宅なのかを知るには、住宅性能表示でわかります。
これは欠陥住宅の被害が広がったことをきっかけに制定された
「品確法(住宅の品質確保の促進などに関する法律)」のなかにある制度で、
4等級あるうちのどの等級になっているかで性能がわかります。
この制度は、住宅の性能に対して分野ごとに確認する項目を設け、
評価機関がそれらをもとにチェックし、ランク付けをしていくというものです。
この制度の良い点は、判断がまちまちになりがちな住宅の性能や品質を、
同じ機関が客観的に評価している点でしょう。
この評価内容によって、住宅の性能は以下の4つの等級に分けられます。
【省エネ住宅の4つの評価等級】 | |
---|---|
4等級 | 次世代省エネ基準 |
3等級 | 新省エネ基準 |
2等級 | 義務基準 |
1等級 | 義務基準以下 |
窓の断熱性を上げるためのちょっとした工夫
Low-Eの複層ガラスを使った窓は、
一般的なガラスの窓よりも断熱性・遮熱性に優れていますが、
この窓だけでも熱の出入りは完全に防げません。
特に夏場の強い日差しの元では、
Low-Eの窓を使っていても室内の温度が上がってしまいます。
夏場に一番効果があるのは、
日射熱をカーテンやブラインド、サッシ、すだれなどで防ぐことです。
しかし、室内に設置するカーテンやブラインドは、室内でそれ自体を温めてしまうため、
そこから放射熱が室内に伝わってしまいます。
一方、サッシは遮熱に大きな効果があるものの、
部屋が暗くなってしまいますから昼間は使用を避けたいところでしょう。
残る「すだれ」は窓の外に設置しますから、
放射熱で温められても室内の空気には影響を与えません。
同じように庇(ひさし)がわりにオーニングを取り付けたり、
すだれ代わりに外付けのロールスクリーンで日射熱を防いだりするのも有効です。
このように、夏場は窓の外で光を遮ることが
室内の温度を上げないためのポイントになります。
断熱材に使われている材料を知る

省エネ住宅の建築には断熱材が欠かせません。
しかし、一口に断熱材といっても10種類以上があり、
使われている原料によって大きく3つの種別に分けられます。
しかも、同じ種別のなかでも、原料によって使われる場所も変わるのです。
家のなかで暮らしているとなかなか目にすることがない断熱材ですが、
特徴やそれぞれの違いをよりご理解いただくために、
ここでは各種別のなかからいくつか選んでご紹介しましょう。
無機繊維系断熱材
無機繊維とは、無機物を人工的に繊維化したガラス繊維や
岩石繊維などを使った化学繊維の一種です。
無機繊維系断熱材には、主に以下のような種類があります。
グラスウール
ガラスを繊維化した素材です。
耐久性や耐火性に優れている割には価格が安く、
木造住宅の多くの場所に使われています。
ロックウール
玄武岩などの岩石を線維化した素材です。
グラスウールと同様に、
低価格の割に耐久性や耐火性に優れているため、
これも木造住宅の多くの場所で使われています。
発泡プラスチック系断熱材
プラスチックの樹脂のなかにガスを混ぜて無数の泡を作り、
発泡状にして固めたものです。
梱包する際によく見かける発泡スチロールは発泡プラスチックの代表例です。
ポリスチレンフォーム
スチロール樹脂を発泡させ、そこに難燃剤などを加えた素材です。
軽量で緩衝性・加工性に優れたビーズ法ポリスチレンフォーム、
軽量で硬質のため基礎の断熱などにも使われる押出法ポリスチレンフォームがあります。
硬質ウレタンフォーム
脂肪族化合物のポリオールに難燃剤や発泡剤などを加えたポリオール成分に、
硬化剤のポリイソシアネートを加えた素材です。
断熱性に優れているのが特徴で、ボード状(板状)にされた製品を使う場合と、
材料を現場で発泡させてからスプレーで吹き付けて使う場合があります。
フェノールフォーム
フェノールとホルムアルデヒドを原料としたフェノール樹脂を発泡させ、
ボード状にした断熱材です。
フェノール樹脂は合成樹脂のなかでも耐熱性と難燃性に優れていることから、
自動車の部品などにも使われています。
自然素材系断熱材
自然素材系は、木材や古紙、羊毛などの素材を使用した断熱材です。
自然素材系の特徴は、保温性が高いほかに、
湿気の吸収・放出性が高く結露しにくい点が挙げられます。
自然の素材なので、比較的安全性が高いのもメリットです。
セルロースファイバー
セルロースファイバーの主な材料は、
古新聞などから作った紙の繊維やパルプなどの木の繊維です。
使用する際は機械を使って吹き付けます。
木質繊維ボード間伐材や廃材、樹皮などを細かく砕いてから繊維化し、
ボード状にした断熱材です。
不要な木材をリサイクルして使用していることから、
自然にやさしい建材として注目されています。
医療用ポリエステルに
羊の毛を混ぜて作った断熱材です(ポリエステルを使わない場合もあります)。
コストが安く、調湿や防音性能に優れています。
断熱性・気密性の高い家は結露も抑えられる

冬場に暖房器具を使っていると悩まされるのが結露です。
結露はカビの発生原因にもなりますから、
できれば結露自体の発生を防ぎたいところでしょう。
そもそも結露というのは、空気中に含まれる水蒸気が、
外気によって冷えたガラスやサッシ、ドアなどに触れることで凝結し、
水滴として表面に付くことを言います。
しかし、気密性と断熱性の高い住宅であれば、
複層ガラスによって室内側の窓ガラスの温度が下がりにくくなり、
結露も抑えられます。
とはいえ、これでも結露を100%抑えられるわけではありません。
定期的に室内の換気を行うなどして、
空気中の水蒸気を外に逃がしてあげることも大切です。
上で挙げた例が断熱材のすべてではありませんが、
材料や使い方、特徴に違いのあることがおわかりいただけたかと思います。
注文住宅の打ち合わせの際に、
お客様側から使用する断熱材を指定されるケースはあまりありません。
しかし、あらかじめ断熱材の名前と特徴がわかっていれば、
打ち合わせもスムーズに進みます。
また、お住まいの地域によっては断熱材の使用量を増やしてほしいといった
具体的なご要望も出せることでしょう。
実際、私がハウスメーカーの営業マンをしていた頃も、
宮城県仙台市のお客様を担当したときに、床が冷えないように
断熱材の量を倍にしてほしいというご要望をいただいたことがあります。
壁や天井の中にあって、普段は目に入らない断熱材ですが、
ぜひ関心を持ってより良い家づくりに役立ててください。
冷暖房に頼らない暮らし
日本の四季のなかでも春と秋は比較的気候も穏やかで、
冷暖房器具にほとんどたよらずに生活ができます。
こういった時期は自然の光や風をうまく利用して、
人工的な温度調節に頼らない、身体に優しい生活をおくりたいものです。
また、この季節に限らず1年を通して自然エネルギーを活用することは、
電気代の節約にもつながりますし、日々の生活のなかで季節の変化も感じられます。
注文住宅の間取りを考える際には、
自然エネルギーをうまく取り込める家を意識してみてください。
ここからは、注文住宅で自然エネルギーを活用するための工夫をいくつか見てみましょう。
自然のエネルギーを活用するパッシブデザイン

太陽の光や熱、風などの自然エネルギーを活用し、
室内の空気を温めたり循環させたりすることで
冷暖房器具の使用を抑えられるような住宅。
このような家を、パッシブデザインの家といいます。
敷地内に植えてある樹木や植栽などもその活用対象
パッシブデザインの設計手法で建てられる家は、
自然エネルギーを活用することに重きを置いていますが、
敷地内に植えてある樹木や植栽などもその活用対象に含まれます。
パッシブデザインの家には、
ドイツのパッシブハウス研究所が規定した性能基準(※)を満たした家「パッシブハウス」があります。
しかし、ここでは細かな規定はひとまず置いておいて、
パッシブデザインとはどのようなものかをご紹介します。
このデザインの家では具体的にどんな自然エネルギーをどう活用するのか、
1つずつ見ていきましょう。
※パッシブハウスの性能基準
冷暖房器具に使用する電力の負荷が15kwh/㎡以下、家電製品を含む一次エネルギーの消費量が120kwh/㎡以下、室内に50Paの加圧をしたときに空気の漏れる回数が0.6回以下の気密性能。
パッシブデザインの家で活用するエネルギー
風外気を取り込むことで室内の空気を循環させ、温度や湿度を下げる自然の風は、
春や秋にはエアコンの代わりになります。
風をうまく室内に取り込むには、
風が外から入って抜けていけるように窓やドアを配置することが大切です。
また、温まった空気は家の上のほうに集まりますから、
高い場所に付けた窓から空気が抜けていくような構造にするのも効果的です。
そのほか、部屋だけではなく、廊下にも風が通り抜けていけるよう、
住宅の形や窓・ドアの配置を考えましょう。
太陽の日射熱
パッシブデザインの家は、断熱・遮熱はもちろん、
蓄熱に関しても設計に積極的に取り入れているのが特徴です。
建材のなかには蓄熱性に優れた製品がありますので、
そういった建材をうまく活用しましょう。たとえば、
冬場の対策として、陽当たりの良い土間や壁に蓄熱性の高いコンクリートを使っておけば、
昼間に日射熱を蓄えさせ、夜に放射させることで室温の低下を抑えることができます。
太陽の光
より多くの太陽光を住宅に取り込むことは、部屋を明るくすることにも繋がります。
しかし、いたずらに窓の数を増やしたり、サイズを大きくしたりしても、
室内への熱の出入りが増すばかりで、かえって快適な環境は作りにくくなります。
また、夏と冬では太陽の高度も異なり、建物に差し込む光の角度にも違いが現れます。
そのため、夏よりも太陽の高度が低い冬のほうが、
部屋の奥まで光が差し込みやすくなるわけです。
夏なら強い陽射しに備えて、あらかじめ庇(ひさし)を設けておくことで、日射熱を抑えられます。
すだれやオーニングなどと併用するのも良いでしょう。
樹木
敷地内に植える樹木は、見る人に安らぎを与えたり、季節の移り変わりを感じさせたり、
周囲の視線を遮ったりする効果があります。
しかし、パッシブデザインの家では、樹木が作り出す日陰が重要視されます。
特に夏場は樹木の影によって、建物や地面の温度上昇を抑えることができるからです。
冬場であれば冷たい北風を遮る壁の代わりにもなってくれるでしょう。
また、樹木ではなくても、夏場は軒先から吊るしたロープに植物を這わせれば
日光を遮ってくれますから、パッシブデザインの住宅では植物の活用の幅は広いのです。
太陽光発電の使用はパッシブデザインではない?
自然エネルギーを活用する住宅というと、
太陽の光をエネルギーに変換する太陽光発電や
太陽熱給湯を使う家が思い浮かぶかと思います。
ところが、これらは自然エネルギーの活用こそしてはいますが、
同時に機械を使ってエネルギーを作り、積極的に消費しているという点から、
パッシブというよりもアクティブと捉えられています。
つまり、省エネルギーという観点では同じでも、すでにあるものを活用するのと、
必要なものを作り出すという点では考え方が大きく異なるため、
パッシブデザインの設計には含まれません。
あくまでも機械を使わずに、
自然エネルギーを有効に活用するのがパッシブデザインの家なのです。
とはいえ、注文住宅の内容は個人の考え方に関わることですから、
よほど強いこだわりがない以上は、
パッシブデザインの家に太陽光発電や
太陽熱給湯を組み合わせて使うのも問題ありません。
大切なのは自然のエネルギーを活用しながら快適な生活をおくりつつ、
エネルギー使用量の削減に貢献できるかという点ではないでしょうか。
パッシブデザインはヨーロッパ生まれの建築手法
自然のエネルギーを活用することに主眼を置いたパッシブデザインの家は、
もともとヨーロッパの北部で生まれた建築手法です。
パッシブデザインの家は、冬の気温がマイナス15~20度になるような地域でも、
断熱性と気密性の高さで暖房器具をほとんど使わずに生活ができます。
しかし、ヨーロッパの北部と日本では気候がまるで違います。
特に夏は気温と湿気の高い日本のほうが、より厳しい気候といえるでしょう。
これを踏まえ、日本で建てられるパッシブデザインの家は、
遮熱や放熱をうまく考えた設計になっているのです。
洋風の建物が増えて来た昨今では、長い庇(ひさし)がない住宅も増えてきました。
しかし、もともと日本の家屋は日本の気候に合わせた設計になっています。
たとえば和風建築の庇が長く、日射をうまく遮るようになっているのも、
日本の気候を考えたパッシブデザインです。
もっとも、電気もガスもないころに考えられた建築手法ですから、
パッシブデザインになっているのはある種当然といえます。
こういったパッシブデザインを優先した考え方は、
大和ハウスや住友林業などの大手ハウスメーカーをはじめ、
工務店などでも当然取り入れていますので、
注文住宅を建てる際の選択肢のひとつとして意識してみてはいかがでしょうか?